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豚の角煮だよ全員集合

豚の角煮好きのたわいもない話です。

立ち退き決定

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立ち退き決定

ぼくが住んでいる団地は棟と棟のあいだが
緑で囲まれていてじつに快適な環境になっている。

たとえば、二号棟と三号棟のあいだは大小さまざまな木が植えてあり、
想像力を豊かにすれば、ぼくが住む四号棟と三号棟のあいだは木こそ少ないが、
代わりに一面芝生になっており、その中央にはヤシの木が四本植えてある。

さらに、子どもが遊べるようにブランコもある。


そんな場所だから、週末ともなると団地に住む子どもたちの遊び場となり、
その親たちも集まってくる。
そしてその親同士もじつに仲がいい。
世代が一緒というのがおおきい。
で、ぼくもまた同世代なので仲よくさせてもらっている。
みなさん本当にいい人たちなのである。

最近は寒くなってしまったが、
すこしまえまでの昼間は暖かかった。

そんなときはときどき、御座やレジャーシートを敷き、
それぞれが食べ物や飲み物を持ち寄って
自宅をまえにしてピクニックを味わったりしていた。

子どもたちは適当にブランコや自転車で遊ばせておいて、
大人たちはボードゲームに熱中したり。ときにはお酒まで運び込まれ、
宴会にまで発展し、夕方になるとそのままある家族の家に移動して
さらに宴会をつづけることもしばしば。

週末の、じつに平和的な時間が流れるのである。
そんな団地の庭にちょっとした異変が起きた。

朝、起きて窓をのぞくと小型のショベルカーが
ギュワンギュワンと芝生のひろい範囲を掘りかえしてるのだ。

周りが囲われ、緑が削り取られ、土が剥き出しになって、
無惨な姿に変貌している。この期に及んでなにをしているのだろうか。
そういえば、2、3日まえにはとなりの棟の庭でも穴が掘られていた。

下水工事?それにしては掘っている範囲がひろすぎる。

いずれにしても、これでは宴会はおろか、子どもたちも遊べない。

なんてことをするんだ。

窓をのぞきながら怒りにちかい感情が込みあがってきた。
夜、いつもの店でI氏と打ち合わせがてら談笑しながら飲んでいると、

一組の男女がちょうどレジで支払いをしていた。
見ると、先日カルチャー雑誌『E』の編集部を退職したばかりのA嬢と、
映画専門誌『C』の編集者、U氏だった。
どうやら密会をしていたらしい。
いや、密会というのはあくまでイメージで、

単に二人で食事をしていただけのことだろうけど。

でも、別組織の同業者同士が会っているのを発見すると、

どうも密会に見えて仕方がないのは、

ぼくのしょうもない深読みである。どうでもいいことで、
U氏はまだ仕事が残っているらしく店を出たが、A嬢は我々の飲みに加わった。

「そういえば、団地で穴を掘っているけど、あれは発掘調査らしいですよ」

A嬢がそう話す。じつは彼女もおなじ団地の住民なのである。
なるほど、そういうことなのか。

発掘調査。つまり、こういうことだ。

一年後にはあの団地は取り壊しが決定している。
そのあと団地のとなりの集合住宅の敷地も合わせて大規模な再開発が予定されていて、
それにむけての発掘調査ということである。

要するに、来年には本当の本当に取り壊されてしまうということだ。

いや、その決定はぼくもすこしまえに聞いていたし、その心構えでもいた。


ただ、この建て替えの話はもう何年もまえから
浮上しては消えるというのを何度も繰り返してきた。

そもそも、10年前、あそこに越してきた当初から、
いずれは取り壊されるという噂は聞いていた。

借りている我々には関係のない話だが、なが年、
家主や土地所有者のあいだで建て替えの是非をめぐって
攻防戦が繰り広げられていたということだ。

で、二年ほどまえにも一度「これが最終決定」という通達がきて、
その数ヶ月後には「白紙」に戻ったことがあった。

だから、今回も「いずれは白紙になるのでは」
という微かな期待を寄せていた。
しかし、発掘調査をはじめたということは、
今回ばかりはついに、ということになってしまう。


ぼくにしてみれば、一生とはいかないまでも、
出来るだけ末永くここに住んでいたいというのが素直な心境である。

もちろん、建物自体はかなり古いもので、その危険性はある。
でも、それを差し引いたとしても、

立地条件も含めてここの環境は他では得られないものだと考えているし、
なによりも、愛着が染みついている。

庭に集まる人たちのあいだでは、
すでに「近所に引っ越す予定」だとか
「田舎に帰る」などといった話もはじめている。
フフフ、と笑いながらも、みんなどこか寂しげである。

A嬢の話だと、この辺一帯はある一大企業が土地を独占しているとのこと。
六本木辺りの再開発を手掛けたのとおなじグループらしい。

ということは、あれか。

またナントカヒルズでもおっ立てるということか。
もっとも、ここは丘ではなく谷なので
ナントカヴァレイなんていうシャレた名前がつくのだろうか。
いずれにしても??

もーいーんじゃないか、そいうの。
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